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「国民保護研修会in熊本」(議事要旨)


 
 1. 日時    2010年9月14日(火) 18:30〜20:00
   
 2. 場所   熊本県立劇場 演劇ホール (熊本県 熊本市)
   
 3. 主催   内閣官房/熊本県/熊本市
   
 4. 登壇者     【主催挨拶】            
            兵谷 芳康     熊本県副知事
            寺ア 秀俊     熊本市副市長
   
    【基調講演】        
        奥村 徹  内閣官房NBC災害対策専門官
   
    【パネルディスカッション】        
    パネリスト   井 清司   熊本赤十字病院救命救急センター長
        中村 俊隆   熊本日日新聞社 社会部長兼論説委員
        山ア 達枝   NPO法人災害看護支援機構理事長
        山内 正和   内閣官房内閣審議官
        富田 健治   熊本県危機管理監
   
    コーディネーター   奥村 徹    




 ●兵谷 芳康 熊本県副知事 主催挨拶
    兵谷 芳康氏  国民保護法は、わが国が武力攻撃あるいは大規模テロを受け、あるいは、そうした危険にさらされたときに、国民の生命・身体・財産を守ることを目的として、平成16年に制定されました。熊本県もこの法律に基づき国民を保護する計画を策定し、組織や体制の整備、避難・救援に向けた備えの充実、訓練、啓発を行なっています。
     そうした中にあって、10月2日に、本県において国民保護共同実動訓練を開催します。この訓練は爆弾テロを想定したもので、本年度、全国では最大規模の訓練となります。現在、警察や消防、自衛隊、医療機関などの関係機関と協力して、その準備を進めています。こうした国、地方公共団体、医療機関、さらには地域住民の皆さんが一体となって訓練を行なうことによって、有事の際の対処能力が向上し、また関係機関の連携が強化され、地域住民の皆さんの理解が深まるものと期待しています。
     本日は、そうした実動訓練に先立って、実際に救援の活動あるいはテロが起こった場合の医療活動などについて理解を深めていただくために、研修会を開催しました。
     テロが身近に発生した場合、私たちは個人として、あるいは組織として、そして地域として、どのように対応すべきか、あるいは平素からどのように備えておくべきかといったことを考え、学ぶいい機会になると思います。本日の研修会が皆様にとりまして有意義なものとなることを、心から祈念しています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ●寺ア 秀俊 熊本市副市長 主催挨拶
    寺ア 秀俊氏  本研修会は、10月2日に国、熊本県、熊本市ならびに関係機関共同で実施される国民保護共同訓練に先立ちまして、訓練参加者はもとより一般市民の方々にも、テロなどが発生した際の救援活動や医療活動をご理解いただくために開催するものです。
     熊本市におきましても、平成19年3月に熊本市国民保護計画を作成以降、化学テロを想定した実動訓練や、爆弾テロを想定した実動訓練を実施しています。これらの訓練を通じまして、現地における初動対処能力の向上や、職員の国民保護措置に対する理解と住民の避難・救援能力の向上、そして関係機関の皆様との連携強化を図っています。
     このような中、熊本市におきまして研修会および共同訓練が行なわれますことは誠に意義深く、関係機関相互の連携強化をはじめ、国民保護に関する私どもの能力の向上につながることと大変期待しています。
     来たる10月2日の訓練が成功しますよう祈念いたします。どうぞよろしくお願いいたします。


 ●基調講演
  
 緊急事態にいかに立ち向かうか 〜化学テロから爆弾テロまで〜

                         内閣官房NBC災害対策専門官 奥村 徹
    奥村 徹氏  NBCテロ対策。Nは核・放射性物質、Bが生物剤、Cが化学剤を使ったテロである。東京地下鉄サリン事件は、それまで軍事の世界の話であったNBC兵器が一般市民に対して大都市で使われたはじめての事件であった。

     当時、私は聖路加國際病院に勤務しており、負傷者への対応にあたっていた。以来、NBCテロ対策を専門としている。東京地下鉄サリン事件では13名の尊い命が失われ、6千名以上の被災者を出したといわれている。世界中でNBC兵器がテロに使われるということを最初に証明した、悲しむべきテロ事件であった。

     事件直後の地下鉄駅構内の状況を見ていただき、こういった状況の中で、皆さんはどういうふうに自らを守っていけばいいのか、どういうふうに助けを求めればいいのかということを、いま一度、考える機会にしていただければと思う。


    テロの現場からテロへの対応を学ぶ

     本日の講演では、テロの現場はどうなのだという現実を皆さんに感じていただきたい。そうしないとテロに対してどう対応するかという発想も生まれないと思う。

     スリランカの爆弾テロの映像を見ていただきたい。爆発自体はたいしたことないと思われるかもしれないが、この瞬間に20名以上の方が亡くなっている。SPが女性首相を取り囲み、一刻も早くこの現場から遠ざけようとしている状況や、日本人の記者で、体に数十発の破片を受けている状況、明らかに亡くなっているであろう方の姿も見える状況となっている。このように多数の傷病者が発生した事例では、テロの事例にとどまらず、災害医療の世界では「3T」が強調される。最初のTは「トリアージ」のTである。どの人から優先的に助けなければいけないのか、どの人から優先的に治療しなければいけないのか、どの人から運び出さなければいけないのかということを、トリアージでまず決める。続いて、「トリートメント」=治療に移る。そして、運ぶ=「トランスポーテーション」となる。

     マドリッドの列車爆破テロの例では200名以上の方が亡くなっている。アルカイダの犯行とされているが、日本においてもアルカイダがテロ予告声明を10回以上も出しており、その意味では、いつこのようなテロが起きても不思議ではない時代になっている。

     では、日本がずっと平和であったかというと、そうではない。われわれが決して忘れてはならないのが、1974年の三菱重工ビル爆破事件である。これは三菱重工ビルが爆破され、1q四方にわたって窓ガラスが飛散し、昼どきのサラリーマンやOLらが、空から降ってくるガラスの破片にあたり、8名が死亡、385名が重軽傷を負うという痛ましい事件であった。

     本日は看護学生の方も来られているので、ケガをした足に異物が写っているレントゲン写真の例を紹介したい。レントゲン写真に写っている足の異物を摘出してみると、テロリストの歯であったという例が報告されている。自爆テロの場合、テロリスト自身の器官が破片となってほかの人を苦しめることもある。また他の例では、鼻血が出ているだけで、少し意識状態が悪いという患者が、実際には、爆弾の中に仕込まれた釘が鼻から体内に入っており、大きな外傷を負っているという例がある。鼻血が出ているだけでも、実際には生命に関わる大きな外傷を負っている可能性があるというのが、爆弾テロの恐ろしいところである。小さな傷口であっても、そこから鋭利な破片が体内に入っている可能性を常に否定しなくてはならない。


    爆傷治療に関する情報共有の活動がはじまっている

     一般の外傷に比べて、爆弾テロに対する臨床的な経験は、アメリカにおいてすら多くあるわけではない。アメリカの一例を見ると、Terrorism Injuries Information,Dissemination and Exchange─テロに関する外傷の情報を共有するプロジェクトが行なわれている。厚生省やCDC(疾病予防局)、あるいはアメリカの救急医学会が中心となって、爆弾外傷についての基礎的な知識を普及させる活動が開始されている。日本では、このような情報がまだ共有されていないと感じており、私も含めて外傷・爆傷の専門医が中心となって、日本の爆傷治療の発展のため、学際的な、職種を超えた爆傷治療体制の強化を目指して、本年、日本爆傷研究会が発足している。成果物として、初動対応要員のための爆傷サバイバルカード、医師向けのサバイバルカード、医療機関向けの爆傷の標準カルテを作成し、本年6月1日に開催された日本臨床救急医学会で公開している。このサバイバルカードは、特に初動対応の機関、警察・消防、行政に配っているので、おおいに活用していただければと思う。

    爆傷への対応 〜一般外傷との比較から〜

    奥村 徹氏  一般のケガ・外傷と爆傷の違いについて話をさせていただきたい。一般外傷は、交通事故や列車事故あるいは自然災害で広く起こるものである。爆傷は、爆弾による傷や爆弾テロで想定される傷である。一般外傷と爆傷の違いのひとつは、診療体制である。一般外傷であれば、外傷外科医や救命救急センターは経験豊富であり、最近では外傷治療の標準化も進んでいる。しかし、残念ながら本邦では、爆傷治療のノウハウが蓄積されていないのが現状である。

     一般外傷と爆傷の違い、その二は、重症度の違いである。集中治療室に入室する割合の違い、CTスキャンを撮る患者の割合、二週間以上の長期入院になる患者の割合、手術を要する患者の割合などについて、一般外傷と爆傷との違いに関するデータがある。イスラエルの研究者が学会で発表したデータによるとテロ外傷のほうがより重症度が高い傾向にある。テロ外傷のほうがICUに入る率が高く、CTスキャンを撮る率も高く、あるいは二週間以上の入院になる例も多く、手術も多い。裏を返せば、こういった爆傷が起きた場合には、自然災害以上に周りの地域から医療資源を投入する必要があるということである。

     続いて、小児外傷について。これはあまり知られていないが、一般外傷では、わが国は欧米先進国に比べて小児外傷の救命率が低くなっている。日本では、いわゆる新生児の死亡率は世界に冠たる低さとなっている一方、反対に1歳から4歳の死亡率は、欧米の平均的な死亡率からみて非常に高い状況となっている。これはどういうことかというと、結局、死亡率の高さは、1歳から4歳児までの外傷で亡くなる子供たちが多い。誤解を恐れずにいうと、小児の1歳から4歳児までの外傷の患者を日本では他国に比べて救命できていないという現実がある。平時でも低いので、ましてやテロ時には、より低くなる恐れがある。自然災害以上に積極的に専門医の投入や専門病院への航空搬送を行なう必要があると言え、今回の訓練でも、小児の専門医を熊本に空輸し、一方で小児の外傷患者を北九州に航空搬送するというシナリオを考えている。

     また、一般外傷と爆傷の違いは、特徴的な病態にある。爆傷では、爆発の衝撃波による特有な損傷、いわゆる一次爆傷がある。これは爆傷肺とか脳の損傷、鼓膜の損傷、あるいは腸管の破裂等が知られている。爆傷肺は、急に高い圧にさらされることによって被害を受けることになるが、こういった爆傷肺に関しては、どういう人が重症といえるのか、中等症といえるのか、あるいは軽症といえるのかについて提唱されている基準がある。こういったものも爆傷サバイバルカードを通じて、今回の訓練で情報共有されることを祈っているしだいである。

     さらに、重症度に影響を与える因子としては、高性能爆薬かどうか、あるいは爆心地からの距離、遮蔽物の有無、爆発したときに寝ているのか/座っているのか/立っているのか、立っていれば被害はより大きくなる。閉鎖空間、開放空間ということからいえば、閉鎖空間のほうが、より重症な患者が増える。また、攻撃方法によっても、あるいは有害物質を含むか含まないかということによっても重症度は変わってくるという、より複雑な状況がある。

     全世界で40以上の爆弾テロを集計した医学雑誌のデータによると、建物が崩壊するような爆弾テロがあった場合には、25%が即死、また閉鎖空間であれば8%が即死している。開放空間であっても4%が即死である。爆弾テロが起きたときに、建物崩壊を含むのか、閉鎖空間で起きたのか、解放空間で起きたのかということは、そのテロの大きさを示す指標になると言える。このデータからいくと、4時間以内の早期に死亡するケースは意外に少なく、むしろ4時間以降の晩期死亡が再び増加する傾向がある。

     一般外傷と爆傷の違い、その五は、初動対応要員および被災者の防護装備にある。一般外傷では、標準予防策で十分な場合がほとんどだが、爆傷では、9・11テロ後に粉塵による呼吸器等の後遺症が社会問題化したこともあって、マスク等の粉塵対策が非常に重要になっている。

     一般外傷と爆傷の違い、その六は、合併症である。挫滅症候群、クラッシュシンドローム、コンパートメントシンドロームなどがよく知られている。挫滅症候群とは、長い間、倒れた建物などに手足が挟まれていて、それを解放したとたん、圧迫されて死んでしまった筋肉からカリウムが心臓に流れてきて瞬間に死亡するという、ショッキングな外傷である。阪神大震災や福知山線の列車事故でも指摘されている。

     こういった自然災害の知見に加えて、爆傷の場合は、中毒や化学兵器、NBC兵器といわれるものが一緒に使われる可能性も考えておかなければいけない。

     現場でなぜ一酸化炭素中毒の診断が必要か。爆発、火災の場合には一酸化炭素中毒が起きうるわけだが、一酸化炭素中毒は症状が非特異的で、この症状があるから一酸化炭素中毒といえるような症状がない。診断できなければ治療はできず、治療が行なわれなければ予後は悪化し、間欠型のCO中毒になれば重篤な後遺症を残す。その意味で、火災現場あるいは爆発現場では、日頃から一酸化炭素中毒を否定すべきであろう。火災・爆破現場にとどまらず、頭痛、けいれん、気分不良、意識障害など広範な訴えがあるような場合には、普段から一酸化炭素中毒を疑うべきだが、最近、パルスオキシメーター(指先に挟むだけで酸素の濃度の測定が可能)の中に、COヘモグロビン、いわゆる一酸化炭素中毒の指標である数値やメトヘモグロビン血症のパーセンテージがリアルタイムに測定できる機器も出てきている。このような機械を積極的に使用し、病院に着く前に一刻も早く治療することが被災者の予後をよりよくするということである。

     COヘモグロビンの表示が出るパルスオキシメーターも、今回、訓練の中で試みに使用したいと考えている。

     一般外傷と爆傷の違い、その七は、一般外傷では、皮脂からの外出血が比較的コントロールしやすいが、爆傷では、広範な組織の破壊に伴って止血困難な動脈性の出血が多く、止血しにくいという特性がある。これについて、戦場で救命効果をあげている専用のターニケット(止血帯)がある。ターニケットは、30分以上は巻き続けないというのが大原則になるので、きちんと時間管理ができるということが基本となる。戦場では指揮命令系統がはっきりしていて、時間管理もきっちり出来る。通常のテロ災害の現場では混乱しているので、戦場と同じ条件で使うことは難しいことかもしれないが、戦場では、お守り代わりにターニケットを用意して戦闘に臨み、もし手足が吹き飛ばされるようなことがあれば、これですぐに血を止めるということが実際に行われている。現在はまだ戦場でしか有効性が確認されていないが、市民を標的としたテロの現場でも救命効果があるかどうかについては、今後の検討すべき課題であろう。いずれにしても、こういった特殊な器具は、どういったときに使うべきか、あるいはどういった形で副作用をコントロールすべきかも大切なポイントである。

     いわゆる一般外傷、普通のケガと爆弾のケガはどういうふうに違うのかについて、ポイントをしぼってお話をさせていただいた。ご清聴ありがとうございました。




 ●パネルディスカッション
  
 テロに対して地域はどう備えるか ―熊本県訓練想定から―
  • 奥村 それぞれの知見、知識、知恵をお持ちの各パネリストの方から、「テロに対して地域はどう備えるか」に関してお話いただきたい。最初に、内閣官房内閣審議官の山内審議官から、国としての国民保護について紹介をいただきたい。


  • 国民保護に対する国の取り組み

  • 山内 正和氏山内 国民保護は、万が一、武力攻撃や大規模なテロがあった場合に、国、地方公共団体と警察、消防、自衛隊、医療機関などの関係機関が協力して住民を守るための仕組みである。この国民保護には、大きく武力攻撃事態と緊急対処事態のふたつがあり、それぞれの事態がさらに四つの類型に分けられている。武力攻撃事態(いわゆる戦争状態)は、例えば弾道ミサイルによる攻撃や、ゲリラ、特殊部隊による攻撃などがある。また、緊急対処事態(大規模なテロ攻撃など)は、例えば原子力事業所や石油コンビナートの破壊といった危険物を保管している施設への攻撃、あるいはターミナル駅や列車の爆破といった、不特定多数の人が集まる施設への攻撃、さらには炭疽菌やサリンの散布、ダーティボムといった、いわゆるNBCを用いた攻撃といった類型がある。
     国民保護は、その根拠となる法律(国民保護法)が平成16年度に国会で成立し、施行され、翌17年度からは、国と地方が共同して国民保護共同訓練を実施している。この国民保護共同訓練では、さまざまな事案に取り組んでおり、その内容について年々進化させている。具体的な国民保護訓練のイメージを持っていただくという意味で、昨年度、兵庫県で実施した訓練について紹介させていただきたい。兵庫県の訓練は、集客施設においてテログループが化学剤を散布したという事案を想定して行なった。こうした事案の発生に伴い、最初に被災者の救助が急務になる。陽圧式レベルAの防護服を着用した警察と消防の要員が、発災現場である建物内に取り残されている被災者の救助を行い、被災者に対してできるだけ早く治療を施すため、いったん被災者を建物外に救出した場所で、医療チームが除染前の緊急治療を実施する訓練を行った。こういった災害が発生した場合、通常は汚染物質を取り除く作業が完了してから治療行為を行なうことが通例であるが、兵庫県訓練では試験的に医療チームも防護衣を着用し、除染前の治療を行なった。
     兵庫県の訓練では、はじめて複数の医療機関が受け入れ訓練に参加している。また、避難所では、『事件直後に起こる心理的な動揺は正常な反応であり、その多くは自然に回復すること、もし万一、回復しない場合は医療機関に連絡すること』といったメッセージを記載したチラシを配布している。兵庫県の訓練では、このようなメンタルヘルスへの配慮を訓練にはじめて取り入れている。
     言うまでもなく、国民保護の最大の目的は、死傷者を極力減らすということである。そのためには、災害医療の充実や、実動機関と行政機関、医療機関との連携強化が不可欠となる。また、訓練の準備や実施の機会を通じて関係機関の間での顔の見える関係の構築は、実際の災害の際にも役立つと思われる。このような国民保護訓練を地道に積み重ねることによって、自然災害時の医療面での対応強化にもつなげたいと考えている。
     内閣官房としては、今回を含め、国民保護訓練を通じて現場対応の標準的なモデルを提示していきたいと思っている。特に今年度の熊本県における訓練は、はじめての爆傷事案での実動訓練ということであり、その中でも、わが国が遅れているといわれている小児外傷にも焦点をあてた訓練を行う予定である。今回予定されている10月2日の訓練が実りあるものとなるよう、本日参加の方も含め、訓練への参加・協力をお願いして、私からの説明を終わらせていただきたい。


  • 奥村  続いて、熊本日日新聞の社会部長兼論説委員である中村先生に、地域あるいは市民の危機管理、ひいてはテロ対策についてお話いただきたい。


  • 緊急事態に備えて住民が心掛けること

  • 中村 俊隆氏中村 かつて「日本人は水と安全はタダだと思っている」と外国から揶揄されていた時代があった。今では水はミネラルウォーターなどお金を出す時代になったが、安全・危機管理の意識は、まだまだ遅れているといえる。また、「日本人は平和ぼけをしている」ともいわれる。先の敗戦から長い間平和であったため、戦争や軍事面、防衛面で国際的な常識や知識、危機意識が欠如していると指摘もされる。テロは映画やテレビでの話のように感じている人も多いと思うが、先ほど指摘があったように日本は既に爆弾テロも化学テロも経験している。経済や社会活動、犯罪までもグローバル化している中、テロは決して遠い世界での話ではないということを頭に入れておくべきだ。
     新聞記者になって30年になるが、事件や事故を担当する社会部が長かったせいもあり、殺人事件などの犯罪現場、また多くの人が犠牲となったさまざまな事故、災害現場を見てきた。中には九死に一生を得たり、被害を小さくしたりすることができたケースもあった。そうした場合、ポイントとなるのは、どういう行動をとれるか、日頃から起こり得る最悪の事態に対する心構えができているか、イメージができているかにある。これによって行動が大きく変わるし、避難などの行動がスムーズにできて被害も軽減できる。
     「備えあれば憂いなし」という言葉は、ご存知だろうと思う。受け売りだが、これには前段があるという。「居安思危(こあんしき)」という言葉で、「安きに居りて危うきを思う」と読む。何もない平安無事のときにも危難、危機、いわゆる緊急事態への用心を怠るなという意味だ。そしてこの言葉のあとに、「思えば則ち備えあり」と続く。平時のときに緊急事態のことを想定しているなら自ずと準備もする、との意味。そしてこの後、私たちがよく知っている「備えあれば憂いなし」という言葉に続くのだという。
     心構えも必要だが、日頃から、例えば数日間、自足できる食料品などを備蓄しておくことや、避難時の持ち出し品などを準備しておくことも大切。これらはテロ、災害時だけではなく、さまざまな場面でも役立つはずだ。
     テロも地震などの災害や大きな事故も、いつ起きるか分からない。ぜひ「居安思危」という意識を心がけてほしい。まず個人が、そして家庭、そして身近な地区が「居安思危」という意識を持って取り組めば、有事や災害に強い地域や自治体、ひいては有事や災害に強い国になるのではないかと思う。


  • 奥村  日頃の心構え、あるいは普段からの準備、イメージができているかという問題提起をしていただいた。続いて、NPO法人災害看護支援機構理事長である山ア達枝先生に、看護者の立場からどうテロに対応するかに関してお話いただきたい。


  • 災害発生 緊急事態における看護職の役割(最近の海外での事例を踏まえて)

  • 井 清司氏山ア 被災者または被災者家族に寄り添う持続的なケアとはどういうことか。また、複合的なケアとは何か。被災者・家族は、時間が経てば忘れることができるのか。われわれ看護職が救援のあり方を問い直し、被災者に寄り添う持続的なケアの方法について、一緒に考えてみたい。
     私は阪神淡路大震災のとき、ドクターズカーで避難所回りをした。震災現場では、小さなケガをしている方々が治療にやって来る。あるとき一人の男性がやって来て、淡々と「子ども三人と女房を失いました」「僕があと30センチ、女房のそばにいっていたならば、僕も一緒に逝けたのです」「長男、次男、三男の顔が分からず、着ているパジャマで確認しました」と話をしてくれたことがあった。私は、どうして泣かないのだろうか、どうして騒がないのだろうか、どうしてこんなに平然と言えるのだろうかと思った。その後、私自身も心理を勉強し、非常に重症な、極めて重いショック状態であった場合、事実の重みを実感して受け入れることができず(否認)、意識が飛んでしまって現実感を喪失する(解離)ことがあるということを理解した。このことから、一番先に関わる私たち看護職は、被災者、遺族に、もっとケアが必要ではないかと感じている。
     災害が発生し被災を受けると、被災者には時間軸に沿って変化が生じる。まず、生命危機ストレスが生じる。中国四川の地震では、ビニールに包まれている遺体が路上に放置されており、生き残った被災者は全員、生命危機ストレスを受けている。次に、被災者は生活環境ストレスを受ける。世界で二番目に貧しい国といわれるハイチでの震災では、ライフラインが倒壊し、非常に過酷な避難生活となっていた。そして、次に生活再建ストレスが来る。ハイチ地震発生から三カ月経っても、まるで3日か4日前に地震が起きたような瓦礫の山の中で、生活手段を持たない想像を絶する現実が、今この2010年の世界で起きている。
     テロを含めて災害は、人のいないところでは発生しない。「災害」という言葉が使われるときには、必ず人の存在がある。私たち看護職は人を対象とした仕事である。災害医療活動をする場は、人間の生活を援助する目的と、全人的な医療の本領を発揮する場である。その全人的な医療とは、人間の心と体であり、心と体は相関関係にあり、別々に考えられるものではない。
     昨年神戸で開催された平成21年度国民保護共同訓練では、「日本DMORT研究会」という遺族へのこころのケアをテーマとして勉強しているメンバーにより、突然父親を亡くした姉妹への支援について学ぶ機会を得た。
     住宅などの物的被害については、被災自体の把握に基づいて支援活動が図られているが、心身の被害や社会のストレスという人的被害については、まだクローズアップされていない。家族を失う、大きな社会的ストレスを受けた被災者に対する持続的なケアシステムの構築が急がれている。
     私の災害現場での経験と模擬的な訓練から、情報提供は非常に重要であると考えている。被災者、遺族は、何よりも情報を欲している。正しい情報の提供には何が必要か、どのように答えるべきかについて、私たち看護職は正確に理解することが必要であり、適切な情報を適切なときに被災者に伝えることは心のケアにつながると思っている。


  • 奥村 続いて、医師として、あるいは赤十字の一員としてテロにどう対処するか、今回の訓練の医療の統括責任をされておられる熊本赤十字病院救命救急センター長の井先生にお話いただきたい。


  • テロに対して地域はどう備えるか

  • 山ア 達枝氏 熊本城は県民の誇りであり、築城400年を迎える。ほかの城に比べて大きく異なる点は、実戦に耐えたということである。明治10年、西南の役では2カ月間の熊本城攻防戦と同時期の田原坂の戦いで4月下旬に戦いの趨勢が決まり、その後の5月1日に、日本赤十字社の前身である博愛社が設立されている。赤十字には、おおもとの組織である赤十字国際委員会と、各国の赤十字社が集まった国際赤十字連盟がある。その国際赤十字連盟が主に自然災害を担当するのだが、最近は大規模な自然災害に対応できるように、ERU(EmergencyResponse Unit)という機動力のあるハードの部分を備えるようになった。ERUは国際的な災害に使うものだが、中越地震にも一部を展開している。当院ではこれとは別に九州・沖縄サミットのときにディザスターカー(ICUのような車両)をつくり、2008年の北海道洞爺湖サミットにも派遣している。
     ソフトについては、どのように医療者自身が技能を上げるか、全体の水準を上げるかが重要になる。災害医療の標準化はとりもなおさず救急医療の標準化である。特に、外傷外科、外傷の標準化、そのレベルアップと普及が大きな課題である。
     熊本県では県内の公的病院39の公的病院長会議があり、12年ほど前から独自の災害教育システムを作って地域版のDMATを組織している。DMATは、いろいろな災害に対応できるよう訓練を受け、現在、全国で800チームぐらいが組織されている。熊本県でも、現在、DMATは12チーム組織され、今回の熊本訓練にも参加することになっている。DMATはいろいろな部分で進化を遂げており、統括DMATの制度もでき始めている。
     災害テロ対応は、救急医療の延長であり、救急医療の技術が基本である。平和な日本では、戦傷外科とか化学兵器テロなどには不慣れで脆弱であることから、これらを訓練していく必要がある。各機関、組織の協力体制については、今後の課題となっている。


  • 奥村 それでは最後のパネリストの発表として、熊本県の富田危機管理監に、地域としてテロにどう対応するのか、県の立場も含めてお話いただきたい。


  • 熊本県における危機管理の取組み

  • 富田 健治氏富田  熊本県における危機管理の取り組みについて、熊本の防災力及びその防災力を県としてどのように生かしていくのかということ、また、ふたつ目として、今回の訓練にどのような狙いを持って参加するのかについて申し上げたい。
     まず、どのようにして自然災害やテロ事案による被害を最小限にするのかについて、阪神淡路大震災を例に考えたい。阪神淡路大震災は、日本において未曽有の地震災害であったといわれる一方で、ボランティア元年という側面、また自分を助ける「自助」、隣近所を助ける「共助」、消防や自衛隊から助けられる「公助」、この三つの助けがバランスよく相互に支え合うことの重要性にわれわれが気づいた最初の災害であったといわれている。熊本県において自助・共助・公助を支えるベースについて考えた場合、全国に自慢できることがいくつかある。ひとつは、災害があった場合に地域で活躍する消防団の人数が極めて多いということである。熊本の消防団員数は約3万5000人である。これは全国第5位の人数を誇っている。もうひとつは、自衛隊の存在である。九州の陸上自衛隊を指揮する西部方面総監部及び南九州を管轄する第八師団がある。災害が起こったときにはいち早く駆けつけてくれる、非常に心強い部隊がある。もうひとつは、各町にある消防署、県内13の消防本部があるが、この中には消防士が約2000人いる。
     私たちは、これらの防災力を要(かなめ)にして、県民の自助・共助を有機的に絡ませ、熊本の安全・安心を守って住みやすい熊本にしようと取り組んでいる。一方で課題も持っている。各々の地元で作る自主的な防災組織の組織率が、全国平均より20%ほど低くなっている。ここは、県としても頑張って組織率を高めていきたいと考えている。
     次にふたつ目は、実動訓練への参加の狙いである。この共同訓練は、組織が互いにパートナーシップを発揮することで、対処能力を一段とアップする訓練にしたいと思っている。それとともに、今回の訓練を通して一人一人が具体的なイメージを持つことができるよう、参加した人にとって貴重な体験になることを期待している。
     今回の訓練をきっかけに、今年度をテロ対策元年となるよう今後もいろいろな備えを充実していきたいと思っている。ご協力をいただければありがたい。


  • 奥村 災害、テロ、そういった危機的な事態をイメージする、あるいはそういったことに対する知識を得ることで、一人一人が地域のテロ対策も含めた危機管理のあり方を考える大きなきっかけとしてこの機会を捉えていただければ、主催者としては、これ以上の喜びはない。富田危機管理監が指摘したように、国民保護訓練をきっかけに、テロ対策元年といっていただけるような地元のエポックメイキングな年にしていただければ幸いである。

     本日は皆様方、ありがとうございました。