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「国民保護研修会in茨城」(議事要旨)


 
 1. 日時    2011年1月28日(金) 18:30〜19:30
   
 2. 場所   常陽藝文ホール (水戸市)
   
 3. 主催   内閣官房/茨城県/水戸市
   
 4. 登壇者     【主催挨拶】            
            宮本 満     茨城県危機管理監
   
    【講 演】        
        奥村 徹  内閣官房NBC災害対策専門官
   




 ●宮本 満 茨城県危機管理監 主催挨拶
    宮本 満氏  武力攻撃やゲリラ、テロ等の事態が発生し多くの死傷者が出た場合、犯人対応、火災や爆発の現場処理、医療救護や避難誘導などを行うことが必要となる。

     これらの活動をスピーディに行うためには訓練が大切である。茨城県においても、原子力発電所や駅でのテロ攻撃や、水戸市内での爆弾の同時爆発などを想定した訓練を行ってきた。今年度の国民保護訓練では、放射線物質が含まれた爆弾が爆発し、約二〇〇名の方が被災したという想定で訓練を行う。

     テロ等の事態が万一起きた場合には、冷静に対処できるということが最も大切である。この研修会を通じて国民保護への理解を深め、ご協力をいただければありがたい。

 

 ●講 演
  
 テロに備える 〜茨城県国民保護共同実動訓練を前に〜

                         内閣官房NBC災害対策専門官 奥村 徹
    奥村 徹氏 今回の訓練では爆弾によって放射性物質をまき散らす形のテロを想定しているが、まずは爆弾テロとは何かをお話しする。

     テロの中でも最も起こりやすいのが爆弾テロである。我が国では、1974年の三菱重工ビル爆破事件以来、大規模な爆弾テロは治安当局、警察の努力によって未然に防がれてきた。しかし、インターネットにより爆弾の作成に関する情報がいとも簡単に手に入れられる時代である。小さな未遂事件は実際に起きており、テロはいつ起きても不思議ではない。

     それに対して、爆傷の治療体制は必ずしも整っていない。例えば鼻血だけ出ており、少し意識状態が低下しているような人について、X線写真を撮ったら釘が頭の中に入っていたということがある。爆弾の中に釘などの人を傷つけるものを入れるのはテロリストの常套手段である。臨床医は単に鼻血が出ている患者でも、釘が入っているかもしれないという感覚を持っておく必要があるが、現在は不十分といえる。

     ここに危機感を覚えた日本の外傷・爆傷の専門医が中心となり「爆傷研究会」が設立され、活発な意見交換が行われている。また、ファーストレスポンダーや医療関係者のための爆傷対応のポイントをまとめた爆傷サバイバルカードという成果物をまとめている。国民保護ポータルサイト(http://www.kokuminhogo.go.jp/)の参考資料のページからぜひご覧頂きたい。

     医療関係者は患者を助けようという気持ちが先に行き、安全管理が不十分な場合がある。例えば、スタンダードプリコーション(標準予防策)という、血が出るような処置をした場合には必ず手袋をする、などの原則があるが、残念ながら日本ではほとんど守られていない。

     現場では、テロかどうかもわからない状態の中で対応を迫られる。一度爆弾が爆発して警察、消防など関係者が集まったところでもう一度爆発を起こされることもある。捜査当局から、初動で対応する要員に情報を共有することが必要であろう。

     建物の倒壊の危険性もある。まさに倒壊してしまったのが米国同時多発テロにおけるツインタワーであった。現場でそのリスクを判断するのはかなり難しいが、そのリスクを常に考える必要がある。要救助者の中に犯人がいる可能性も考えなければならない。

     以上のような安全管理を含め、通常の怪我と爆傷では大きく対応が異なるが、その認識は医療界でもなかなか共有されておらず、ノウハウの蓄積もない。


    医療関係者は、通常の外傷と異なる「爆傷」の特徴を理解することが重要

     テロによる外傷とそれ以外の外傷を比較したイスラエルの研究によると、重症者の割合はテロのほうが非常に多い。また、CTスキャンを撮る割合や手術になる割合などもテロのほうが多く、病院資源をより消費する傾向にある。

     小児外傷という観点もポイントである。欧米の先進国に比べて、日本は小児外傷の救命率が低い。ましてやテロのように重症の患者がたくさん出る場合はより状況が厳しくなる。積極的に専門医の投入、航空搬送などを行う必要がある。

     テロ外傷には病態にも特徴がある。爆傷では、衝撃波による特有の損傷(一次爆傷)がある。肺の機能が障害される爆傷肺や、近くで爆弾が爆発することによる脳損傷、鼓膜の破れ、腸管の破裂などの損傷が知られている。

     特に脳損傷は、今アメリカで非常に注目されている。古くは塹壕病(トレンチ・ディジーズ)と言われ、第一次世界大戦中に塹壕でずっと爆音にさらされていた兵士たちが、何か行動がおかしかったり、眠れなかったりということが言われていた。以前はPTSDなどの心の傷であろうと言われていたが、実は脳に傷を負った人がいたのではないかという問題となっている。

     これらの病態の重症度は、爆薬の威力、爆心地からの距離、遮へいの有無、爆発時の姿勢などで大きく変わる。また、自爆テロと置き去り、投射では爆発の位置が異なるため、攻撃方法も重症度に影響を与える。

     爆発や建物の倒壊においては粉じんも重要である。アスベストを含む建物も日本にはまだ多い。米国同時多発テロでのツインタワー崩落の際、消防職員が防じんマスクをつけていなかったがゆえに後々重い肺障害を残したということを教訓とすべきである。

     また、爆弾の中に生物剤や化学物質、放射性物質を混ぜることも考えられる。放射性物質を混ぜた爆弾が、今回想定する「ダーティボム」である。

     世界各国の爆弾テロのデータから、被害者が亡くなる時点をまとめた米国の研究によると、爆弾テロ発生時に即死する人は、閉鎖空間では8%、建物崩壊では25%、開放空間では4%である。4時間以内の極めて早いうちに亡くなる人は意外に少ない。

     日進月歩の医療界では新たな機器の導入も始まっている。爆発では合併症として一酸化炭素中毒も発生するため、「パルスオキシメーター」という体の中の酸素の状態を調べる装置を用いる場合がある。最近では、このパルスオキシメーターにCOヘモグロビンの値が表示される製品も開発された。爆傷肺などの影響による呼吸の状態を判断するのに加え、COヘモグロビンの数値が40や50という数字となっていれば、一酸化炭素中毒を明確に認識して病院に着く前から治療が始められる。

     爆傷においては一般の外傷に比べると広範な組織の破壊が伴い、動脈性の出血が多く止血に難渋する。このような場合、イラクなどの戦場で救命効果を上げているのが止血帯「ターニケット」である。日常の救急の現場ではほとんど使う必要がないが、爆傷の場合にはターニケットを使わないと救命できないことがある。

     ターニケットを使用する際は止血時間の管理が問題となる。戦場では指揮命令系統が確立しているが、混乱する医療現場では、ターニケットを巻いた後に気がついたら2時間、3時間たっていたという場合、足にターニケットを締めたがゆえに、その足を落とさなくてはいけないということにもなりかねない。しっかりと患者の治療の時間管理をしなければならない。

     ここまで爆弾テロについて述べたが、ダーティボムのもう一つの要素である放射線に話を進める。

     放射線による被ばくには全く自覚症状がなく、大量に被ばくした場合にもその場では症状が出ないため、市民はもちろん、医師であっても不安になる。しかし、放射線には種類によって、さまざまな測定器械があり、それらを使うことができれば、放射線を測定することができる。一方で、細菌であれば殺菌でき、化学物質であれば中和できるが、放射線ではそれは不可能である。

     放射線と放射能は混同されることが多いが、違いがある。放射能とは放射線を出す能力のことである。電球に例えると、光ることができる能力、すなわちワット数が放射能、光自体が放射線である。放射線にもアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線とさまざまな線がある。放射性物質は非常にイメージしにくいが、固体、気体、液体とさまざまな形をとり得る。

     被ばくという言葉は、爆発の爆を書く「被爆」と、曝露の曝を書く「被曝」、平仮名で書く「被ばく」と言葉の使い分けがある。基本的には放射線の影響を受けるという場合は「被ばく」と平仮名を使う場合が多い。

     被ばくと汚染の違いについても、医療従事者でも違いが理解されていない場合がある。放射性物質をたき火だとすると、放射線を浴びるというのはたき火の熱に当てられるような形であり、これを外部被ばくという。一方、放射性物質があるべきでない場所に付着することが汚染である。さらに、放射性物質が呼吸や食事によって消化管などから、あるいは傷口から体の中に入る場合がある。これを内部汚染という。例えば健康診断でレントゲンをかけてきたという場合、被ばくは受けているけれども、汚染はしていないということになる。


    救命のためには、外傷治療が緊急被ばく医療に優先する

     大量被ばくでも即死することはないため、ダーティボムの爆発直後に命を失う原因は外傷である。放射性物質で汚染されていても、血圧が下がっている、呼吸がない、心臓が動いていないなどの重症な状態の場合は、汚染を除去する除染よりも搬送や救命措置が優先される。

     汚染患者の医療処置による医療スタッフの二次的な外部被ばくに関しては、X線を受ける患者に付き添う放射線技師が撮影で受ける線量よりも低い。適切な放射線防護措置をとればほとんど問題にする必要はないが、なかなか理解を得られていない。放射線は測定によって数値が出るだけに余計に不安になってしまう場合があるが、反対に言うと、放射線を数字で管理する中で治療ができるということである。

     したがって、専門外だと言ってダーティボムの被害者の受け入れを断るわけにはいかない。ダーティボムが爆発し、放射性物質が検出され、病院が被害者の受け入れを断っている間に、外傷が原因で亡くなってしまうというのが最悪のシナリオである。今回の訓練でも、指定された被ばく医療機関でない救急病院でも外傷を診ていただくようご理解をいただいている。

     放射性物質の汚染拡大防止処置の一つに養生がある。汚染の可能性がある救急車や航空機、診察室などをビニールシートで覆うという方法である。単に器械の外側にビニールをかけるだけであり、特別な準備は必要ない。今回の訓練では、放射線医学総合研究所(放医研)の先生に自衛隊のヘリコプターで来ていただき、被ばく医療機関でない病院で、養生などの汚染拡大防止について直接ご指導を仰ぐことになっている。

     RテロとNテロという言葉があるが、混乱しやすい。Nテロとは、小型核爆弾などを使った、核爆発を伴うようなテロである。一方、Rテロは放射性物質をばらまくテロである。Rテロにもパターンがあり、放射線の照射装置(RED)、放射性物質の拡散装置(RDD)などがある。

     放射性物質の拡散装置にダーティボムも含まれるが、爆弾を使わず、空中から散布したり、エアコンの中に入れたり、食品の中に混入させたりという形で拡散させるものもある。


    不安を煽るのがテロリストの狙い Rテロへの正しい理解が重要

     Rテロの最も厄介な点は、目に見えない相手と闘わなくてはいけないことである。これは生物兵器・化学兵器にも共通することだが、目に見えないことは非常に市民を不安に陥れる。ダーティボムの場合は、それぞれの被災者につく放射性物質の量はごくわずかで、実際は健康上問題となることはほとんど考えられないが、不安になってしまう。これがテロリストの狙いである。また、ダーティボムでは中性子が出てくることはほとんど考えられない。

     そこで、行政や専門家が中心となってリスクコミュニケーションを行うことが大切となる。不安を相談するだけのために病院に殺到しては、病院が救わなくてはいけない怪我の患者に使う力を削がれてしまう。これこそまさにテロリストの思うつぼである。今回の訓練では、行政が、心配ごとを相談できる電話番号を被災者にお渡しするようにしている。

     市民のダーティボム対応としては以下のような点が挙げられる。まずはパニックに陥らない。事件現場に車や持ち物をとりに帰らない。服を脱ぎ、シャワーを浴びればほとんどの放射性物質は落ちる。現場の近くで物を食べたりタバコを吸ったりしない。このような注意点について、米国では教育ビデオが公開されており、インターネット上で見ることができる。

     また、放射性ヨウ素の被ばくの際に飲むヨウ素剤が有名になったがゆえに、ダーティボムのテロの際にヨウ素剤を探してパニックになる可能性がある。実際には、ダーティボムの場合、放射性ヨウ素が問題になることはほとんどない。

     そして、マスコミなどを通じた行政からの広報などに耳を傾け、正確な情報を集めていただければと思う。

     ベストな対応とはそれぞれの地域に根ざしたものになるだろう。茨城県の場合は原発立地県でもあることから、それをメリットにして、今回の訓練をきっかけにRテロ対応を考えていただければと思う。

     本日の研修会を、爆弾テロ、ダーティボム、Rテロとはどういうものかを想像するきっかけにしていただければ幸いである。ご清聴ありがとうございました。